衣類にシミができたときの対処法
通常の洗濯では落としきれない汚れ── シミ
衣類にワインやカレー、インクなどがつくと、通常の洗濯では、なかなか落としきれません。クリーニング店では、「汚れ」と「シミ」は分けて扱い、品質表示通りに洗えば落ちるものは「汚れ」、先述のような品質表示通りに洗っても落ちないものを「シミ」と言います。
思いがけないアクシデントで衣服についてしまった「シミ」。元のきれいな状態に戻すにはどのような処置をしたらいいのでしょうか。シミ抜きの鉄則から、家庭でできる応急処置、クリーニング専門店に任せたほうが良いケースなどをご紹介します。
シミは早く処置すべき!── 酸化
シミは早めに対処した方が落ちやすいもの。その理由が汚れの「酸化」です。思いがけないアクシデントで衣服についてしまった汚れは、すぐに見つけることができますし、原因もはっきりしていることが多いのですが、実は意外と多いのが、汚れに気付かないまま保管していた服を、久しぶりに取り出して、シミや黄ばみに気付くケースです。このしばらく放置されていたシミや黄ばみは、なかなかやっかい。というのも、シミは原因の物質によって落とし方が変わるのですが、その原因がわからないことに加えて、時間の経過により、元々の汚れが酸化によって変質するため、落ちにくくなるからです。
リンゴを切ってそのまま放置すると、断面が茶色っぽくなりますよね。また、バター、マーガリン、マヨネーズも空気に触れている部分が黄色くなっているのを見たことがある人は多いでしょう。この現象が酸化で、シミが酸化することを「黄変」といいます。これと同様のことが、衣類のシミにも起こります。シミの中のさまざまな成分も、空気中の酸素と結びつくことで化学反応を起こして酸化が進み、黄ばみやシミとなるのです。酸化は時間がたつほど落としにくくなるもの。酸化する前に洗えば、きれいになる可能性が高くなります。
Point
シミは放置すると酸化して落としにくくなるので、
早く対処したほうがきれいになる可能性が高い
シミの落とし方には順序がある── シミの種類と特徴
シミ抜きで重要なのは、汚れの原因を特定することと、原因に合わせた対処を行うことです。シミの原因となる汚れは、油溶性、水溶性、不溶性、色素などの種類に分かれます。
1 油溶性 | 2 水溶性 | 3 不溶性 | 4 色素 | |
---|---|---|---|---|
特徴 | ドライクリーニング溶剤に溶ける | 水に溶ける | ドライクリーニング溶剤にも水にも溶けない | 色そのもの シミ抜きでないと落ちない |
例 | 食用油 皮脂 | ご飯などのデンプン質 牛乳などのタンパク質 お茶に含まれるタンニンなど | 墨 泥 煤(スス) 錆びなど | 変色した汗じみ インク 移染 百合などの花粉やカレー粉など |
そして、シミには多くの場合、複数の成分が含まれています。二種類以上の成分の混ざったシミは、生地の上に成分ごとに層になって付着しています(図2)。これは、シミの成分ごとの重さの違いによるため。例えば、油は水より軽いので、表層を膜のように覆っています。その奥に水溶性の汚れが層になり、不溶性の汚れや色素は最奥にしみ込んでいます。
シミの断面図
汚れの成分が複数ある場合は、表面から順に、油溶性→水溶性→不溶性→色素の順に層になっている。表面に付いたシミは落ちやすいが、生地の奥にしみこんだ汚れほど落ちにくい。
そのため、複数の成分が混ざったシミを抜くときには、表層から順に落としていくのが鉄則。最初に油溶性である油の層を除去し、次に水溶性のタンパク質、水溶性のタンニンを落とし、続いて不溶性の汚れ、最後に色素を除くという手順を踏んでいきます。
もちろん、単体の成分の汚れであれば、工程を省けます。店頭でシミのついた服を預けるときには何が付いてできたシミなのかを伝えると、早く処理することが可能です。
Point
シミをきれいに落とすには落とす順番が重要
衣類を傷めずにシミ抜きをするには── 繊維や染料の特徴
シミ抜きを成功させるには、シミの種類に合わせて手順を踏むことが必要ですが、もう一つ、大事になってくるのが、もともとの衣類を傷めないよう、繊維や染料の特徴に応じた落とし方をすることです。
シミ抜きに必要な要素は、①薬品(中性洗剤やクレンジング剤、漂白剤、シミ抜き剤など)、②温度(水温など)、③時間、④力(シミを揉み出す力加減)の四つ。これらを繊維や染料、副資素材の特徴に合わせて正しく選び、正しい順番で行えば、多くのシミは落すことができるはずなのですが、順番を間違えたり、薬品や力、温度を間違えると、絶対に落ちなかったり、衣類の風合いが元に戻らないケースもあります。
例えば、綿や麻は、力をかけすぎると毛羽だったり、色が抜けやすい繊維なので、力はあまりかけられませんし、温度もあまり高くはできません。その代わり、薬品に浸す時間を少し長くかけたり、薬品をちょっと強めのものを使ったりすることで、シミを落とすことができます。一方、ポリエステルのシミ抜きでは、力は入れても大丈夫、薬品も薄めずに使ってOKなのですが、温度は高くできないし、時間もかけられません。繊維それぞれの特徴があるので、シミ抜きの四つの要素を必要に応じて変えていかなければいけません。
うっかり、繊維と相性の悪いシミ抜き方法を使ってしまうと……例えば、しわになりやすい繊維なのに力を入れて、もみ洗いしてしまうと、毛羽立って白くなってしまったり、合わない薬品を使ったり、時間を長くかけすぎると、染料によっては色落ちしたり、といったトラブルが起きます。
Point
繊維の特徴に合わせたシミの抜き方をしないと、
衣類が傷み、元に戻せなくなることも
家庭でできる、シミの応急処置
家で普通に洗濯できる繊維なら、自分でシミ抜きすることも可能です。ただし手順を間違うと落ちるものも落ちなくなるので、焦らないこと。いきなり水をかけたり、力を入れてゴシゴシ洗ったりしないで、何が、どんな繊維についたか、自分で洗えるかを確認してから、シミや繊維に合わせた落とし方の下処理をします。
家庭でできるシミ抜きや洗濯前の下処理
※あくまで一般的な応急処置になります。シミの原因ごとに落とし方は異なります。
食べ物の汚れ(油溶性、水溶性)
水に浸す前に、食器用洗剤などの中性洗剤を塗る
例えば、豚汁をこぼしてしまった場合、まずは油を取った方がいいので、食器用洗剤の原液をこぼした箇所に塗って、あくまで軽くもみます。強い力でゴシゴシこすると繊維を傷めてしまうので、コツは片方の手は固定して動かさず、もう片方を繊維をほぐすように動かして、繊維1本1本の中に、洗剤を浸透させてあげるイメージでもみ洗いします。そうすると界面活性剤が汚れを抱きかかえるので、あとは普通に洗濯すればある程度落ちます。
ちなみに、飲食店で衣類に食べ物をこぼしたときに、おしぼりでゴシゴシふくのは実はあまりおすすめできません。なぜなら、おしぼりには漂白剤が使われていることがあるために、汚れの表層にある油の膜の上から、さらに漂白剤の膜を張るようなものだから。あれば、不要なタオルなどを布の下に敷いて、同じく布で汚れを叩いてあげるのが一番汚れを残さない方法です。
化粧品(油溶性)
水に浸す前に、クレンジングオイルを塗る
ファンデーションなどで衣類が汚れたら、化粧を落とす際に使うクレンジングオイルを塗ってから洗濯機へ。口紅がついた衣類は、タオルを敷いて、汚れた面を当て、裏からクレンジングオイルをつけて歯ブラシなどで軽くたたいて色をタオルに移します。その後、食器用洗剤(中性洗剤)で軽くもみ洗いしてすすいだのちに、衣類にあった方法で洗濯します。
泥汚れ(不溶性)
まずは汚れを払い落としましょう。いきなり水洗いはNG
泥はある程度乾かして歯ブラシなどで払い落したあと、汚れた箇所を少し濡らして固形石鹸を擦り込み、手でやさしくもみほぐすように洗います。ある程度落ちたらすすいで洗濯機へ。泥はいきなりゴシゴシと水洗いするのはNG。繊維の奥深くまで泥が入り込んでしまい、かえって落としにくくなります。
オムツからの汚れ(油溶性、水溶性、色素)
体からの分泌物は体温に近いぬるま湯を使用
赤ちゃんのオムツから便が横漏れして衣類が汚れた場合は、汚れた箇所に食器用洗剤(中性洗剤)をつけて、体温に近い30℃くらいのぬるま湯に浸し、もみ洗いし、すすいでから洗濯機へ。
ここでご紹介したのは、シミ抜きの方法のごく初歩的なもの。実際にシミ抜きが必要になった際は、一度はネットなどできっちり手順を調べて行うか、当店へお気軽にご相談ください。
実は、クリーニング専門店としては、家庭で間違ったシミの落とし方をした結果、どうしても落ちなくてクリーニング専門店に持ち込みという事態が一番大変なのです。例えば「漂白剤をつけたけれど落ちなかった」と持ち込まれた場合、もう漂白剤が付いてしまっているし、生地も傷んでいるかもしれず、衣類に穴があいてしまうような事故リスクもあるのです。次章では、専門店に任せたほうがよいシミ抜きをご説明します。
Point
慌てて洗うより、シミ抜き方法を調べてから行うこと
クリーニング店に任せた方がいい「シミ抜き」とは?
家庭ではどうしても落としにくいシミの代表格が、墨汁などの「不溶性」のシミや、インク、カレー粉、ユリの花粉など「色素」のシミです。
また、油溶性や水溶性など、家庭でも落とせるシミであっても、そもそもシミがついた衣類が、家庭での洗濯が難しいウール、レーヨン、キュプラといった水に弱い繊維でできている場合は、シミ抜きしようとしたために、しわが出来てしまって元に戻らなくなるリスクがあります。もみ洗いをすることで、繊維が縮んだり、毛羽立ったりするリスクもあります。
また、衣類に使われている染料によっては色落ちのリスクがあります。一般的に、染料は①青、②赤、③黄色の順に色が落ちやすいもの(青いジーンズや濃い赤色の服を洗濯して、他の洗濯ものに色が移ってしまった経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか)。カレーなど、色素のシミを落とすために、漂白剤などの薬剤を使用したら、衣類の元々の染料を落としてしまった、ということも起こりえます。
シミはついたら早めに落とすことが大事ですが、とはいえ、家庭で落とすのは難しいケースもあり、その場合は下手に触らず、下処理などせず、そっとシミの原因をつまみ取るだけにして、あとは専門店にお任せしたほうがよい場合もあると覚えておいてください。
ちなみに、家庭で洗うのが難しいけれど、汚れも着きやすいネクタイは、クリーニングの際にはっ水加工をするのをお勧めします。はっ水加工は、水を弾く効果があるだけでなく、防汚効果もあるので、汚れが繊維の中までしみ込みにくくなり、シミができにくく、汚れがついても落しやすくなります。
Point
「不溶性」「色素」のシミや、家庭での洗濯が難しい衣類、
色落ちの恐れがある衣類についたシミは、専門店に相談を
専門店ではどのようにシミ抜きをするの?
専門店でのシミ抜き方法は、先述のように、複数の成分のシミであれば、汚れの層を表層部分から順番に落としていくというのが基本的な手順です。たとえば、油溶性のシミであれば油性汚れ専用の薬品をシミの部分につけ、軽く熱を加えるなど、その繊維や汚れに適した温度で汚れ落ちをよくし、軽くもんだり、叩き出すことで油分を剥がします。
次に水溶性の汚れがあれば、それに適した薬品や温度、力加減で落としていきます。不溶性や、色素の汚れについても同様です。
繊維の特徴と汚れの種類に合わせて、薬品×温度×時間×力を見極めることができるのが専門店の強み。また、専門店ならではの専用の薬剤も使いますし、水圧を使って繊維から汚れをたたき出す専用器具も使います。家庭ではできない処理ができるのが専門店の強みといえるでしょう。
例えば、漂白をかける際に、服の色落ちや繊維を傷めるのを防ぐために、薄めの漂白剤から使っていき、落ちなければ、繊維の状態を見ながら、少しずつ濃度を上げていくなどの時間と段階を重ねて処置をするなどは、家庭ではなかなか難しいこと。それができるのも専門店ならでは。また、綿棒で少しずつ落としていかないといけないようなシミもあります。シミ抜きは、知識や見極める目が必要で、さらに手間と時間がかかるもの。難しいシミ抜きは、専門店にお任せすることにメリットを感じていただければ幸いです。